山小屋周辺の動植物   佐藤 宏 2001/04/05

 山小屋の建設工事に着手して、もう1年が経つ。母屋は,ほぼ完成し、あとは付帯設備を残すのみとなった。
最初は,素人集団のおそらくだれも経験したことのない、伐採から始まり、仮小屋作り、地ならし、鉄筋組み、
パネル積み、コンクリート打ち、屋根葺きなど、不安だらけだったが、なんとかこなして、完成間近までこぎつけた。
私が十数回も工事のために通ったのは、ものを作る楽しさ、喜びに浸りたかったからに違いない。
徐々に小屋らしくなっていく様を見ていると、喜びがふつふつと湧き上がった。

 私には、もう一つ喜びがあった。われわれ山人にとって、最も喜びとするところは、大自然の中にいるということで
ある。それを実感できる環境がそこにあった。
 去年、5月の連休に、仮小屋作りをやっていた。私は、朝早く目覚めた。皆まだ起きてこないので、山菜でも
採りにいくつもりで、小屋から南にのびる山道を登って行った。しばらく行くと道は消え、林の中を進むようになる。
やがてガレ場になって、流れ川の堰堤に出た。そこから川に沿って薄暗い林の中を川下へ下りて行った。
しばらく行くと、古い炭焼き窯の跡が見えた。そこには細いタラの木があって、若い芽が1つついていた。それを
採ろうか採るまいか思案していると、川下の山の斜面の下の方からちらちらと黄色いものが近づいてくるのに
気が付いた。立ち止まって息を凝らして見てみると、長さ1メートルはあろうかと思われる動物であった。それは、
私には気が付かず、山の斜面の裾を、私の目の前まで近づいてきた。私はとっさに、昨晩,地元の上原氏が
話していたテンだと気が付いた。テンは、倒木が、山の斜面から私の方へ横たわっているところまで来て、
倒木に乗って、私の方へ進みかけると、顔を上げた。
そこで、テンの目と私の目が会ってしまった。テンは驚いて向きを変えると、山の斜面を登っていって見えなく
なってしまった。ほんの一瞬の出来事だった。何と美しい、何と神々しい姿であったろう。しばらくその場に、
ぼうーっと立ちすくんでしまった。
その後、何度かその場に通ってみたが、二度とあのテンを見ることはなかった。
しかし、今年はどうであろうか? また、ゴールデンウェークがやってくる。また会えるかもしれない。私のもう
一つの楽しみである。

ホンドテン
哺乳類、食肉目、イタチ科。
キテンとスステンがあり、私が見たのはキテンらしい。おもに、ネズミや小鳥を食べるが、リス、ムササビ、トカゲ、
カエルなどの動物から、カキ、マタタビ、ヤマブドウなども食べる。

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